社交不安障害:「人に見られる」ことへの、こころのブレーキ
会議での発表。 電話応対。 あるいは、人との雑談。
そんな場面で、過度に緊張しませんか。
「変に思われたらどうしよう」
「声や手が震えたら恥ずかしい」
そんな強い不安を感じていませんか。
そして、人前が苦痛になり、 そうした場面を避けるようになっていませんか。
それは「社交不安障害」という、 こころが送る「助けて」の訴えかもしれません。
社交不安障害は「性格」や「経験不足」のせいではありません。
これは、脳の不安システムが過敏な状態です。
適切な治療や支援の組み合わせにより、 症状の緩和を目指すことができます。
その大切な訴えを、どうか見逃さないでください。
こんな「訴え」があれば、ご相談ください(社交不安障害の症状・受診の目安)
「あがり症だから」と諦めないでください。
「こんなことで…」と思わないでください。
大切なのは、我慢しすぎないことです。
まずはお話を聞かせてください。
次のような「こころ」や「からだ」の訴えが続き、 日常生活や仕事、学業に支障が出ている場合に、 社交不安障害の可能性があります。
こころの訴え(不安な場面)
- 「恥ずかしい思いをする」と強く思い込む
- 「失敗する」と過度に心配になる
- 他人から否定的に評価されるのが怖い
- 人の視線がとても気になる(視線恐怖)
- 不安な場面の数週間前から悩み続ける
からだの訴え(不安な場面)
- 人前で話すと声や手が震える
- 顔が赤くなる(赤面)
- 大量に汗が出る(発汗)
- 動悸がする、口が異常に渇く
- めまいや吐き気を感じる
行動にあらわれる訴え(回避)
- 会議での発表や発言をできるだけ避ける
- 人との雑談や会食、電話が苦痛
- 人の目を見ないようにする(安全行動)
- 苦痛な場面を避けるため、予定を断ってしまう
早めに相談することで、 この訴えに適切に対処し、 より早い回復が期待できます。
社交不安障害とは
社交不安障害(SAD)とは、 人から注目される場面で、 強い不安や恐怖を感じる状態です。
「恥ずかしい姿を見せたくない」 という気持ちが、非常に強くなっています。
その結果、そうした場面を避けてしまいます。
そして、仕事や学業、社会生活に支障が出ます。
原因は、脳の不安システム(扁桃体など)の 過活動にあると考えられています。
また、過去の失敗体験も関係します。
「人から否定的に見られる」 という強い思い込み(認知のゆがみ)が、 不安をさらに強めているのです。
似ている疾患との違い
- うつ病:
気分が落ち込み、意欲が低下します。 社交不安障害による苦痛が続き、 二次的にうつ状態を併発することもあります。 - パニック障害:
特定の場面ではなく、突然発作が起きます。
「死ぬのではないか」という恐怖が特徴です。 - 全般性不安障害:
特定の対象がない、漠然とした不安や心配が長く続く状態です。
ご自身での判断は難しいものです。
気になる場合は受診をご検討ください。
社交不安障害の診断と治療の流れ
- 初診:
まずは、今お困りの状況をお伺いします。 どのような場面で不安になるか。
どんな症状が出るか。
生活やお仕事の状況も、 ゆっくり丁寧にお聞かせください。 - 見立ての共有:
問診で、具体的な恐怖症状を確認します。
また、不安を避ける行動(安全行動)も伺います。
診断の考え方や、治療の選択肢を説明します。
そして、当面の目標を一緒に整理します。 - 方針の検討:
社交不安障害の治療は、 CBT(認知行動療法)が柱となります。
お薬(薬物療法)を効果的に組み合わせることも、 選択肢の一つです。
ご相談のうえ、方針を決定します。
社交不安障害の治療の選択肢
社交不安障害の治療では、 不安な場面への「捉え方」と「慣れ」が鍵です。
自信を少しずつ回復することを目指します。
① 心理療法(認知行動療法:CBT)
CBTは、社交不安障害で 最も推奨される治療法の一つです。
対話を通して、こころを整理します。
- 認知の修正:
「自分は否定的に見られている」 「きっと失敗する」 といった、過剰な自己評価や、 考え方のクセ(認知のゆがみ)を、 一緒に見直していきます。 - 曝露(ばくろ)療法:
不安な状況にあえて挑戦します。 安全な方法で、段階的に行います。 「失敗しても大丈夫だった」 という成功体験を積みます。
少しずつ自信を回復させます。
② 薬によるサポート(不安のコントロール)
症状のつらさを和らげるため、 お薬の力を借りることがあります。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):
抗うつ薬の一種です。 不安システムの過敏さを安定させます。 効果が出るまで数週間かかります。
社交不安障害の治療でも、 CBTと並ぶ大切な選択肢の一つです。 - 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など):
発表会や会議など。 特定の場面限定の緊張に役立つことがあります。
不安や緊張を抑えるお薬です。
検討するのは、必要な時だけ頓服として使う場合になることが多いです。
お薬には副作用の不安もあるかと思います。 リスクと利益を丁寧に説明します。 あなたと医師が相談し、 お薬や量を適切に調整します。
③ 環境調整・リラクセーション(安心できる時間を増やす)
過度なストレスや疲労は、 不安を強める原因になります。
まずはゆっくり休むことも大切です。
休むことは「逃げ」ではなく回復に必要な「大切なステップ」と捉えてはいかがでしょうか。
安心して休める環境づくりも支援します。
回復の目安と日常生活の工夫
回復の道のりは人それぞれです。そのため、焦らず、ご自身のペースを守ることが何より大切です。
- 初期:
まずはお薬の力も借りながら、 不安や緊張を和らげます。
CBTの導入として、 社交不安障害の仕組みを学びます。
無理をせず、しっかり休み、不安を強める要因を減らします。 - 回復期:
症状が少し落ち着いてきたら、 CBT(認知の修正)を本格化します。
「考え方のクセ」を見直します。
負担の少ない場面から、 少しずつ挑戦(曝露療法)を始めます。 - 安定期:
「大丈夫だった」という経験を積みます。
避けていた場面に挑戦していきます。
「調子が良いから」と無理はしません。
安定した状態を保つことを目指します。
ご家族・周囲の方へ
ご本人を支えるご家族も、 どう接したらよいか悩むと思います。
社交不安障害は「性格」ではありません。
ご本人が一番苦しんでいます。
「なぜできないの」「気の持ちよう」 「人前に出ないとダメだ」 といった言葉は、プレッシャーになります。
「無理しなくて大丈夫」 「あなたのペースでいいよ」 ご本人が安心して休んだり、 挑戦したりできるような、 温かい見守りが力になります。
社交不安障害について、よくあるご質問(FAQ)
- これは「性格」の問題ではないですか?
「あがり症」や「内気」は性格の一部です。
しかし、その不安や恐怖が強すぎるとき。 学校や仕事を避けるほど支障が出ている場合、それは社交不安障害という治療の対象となります。
「性格だから」と諦める必要はありません。- 緊張して、また失敗するのが怖いです。
社交不安障害の方は、 過去の失敗体験にとらわれがちです。
CBT(認知行動療法)は、 その「捉え方」を修正する練習です。
また、「曝露療法」で成功体験を積みます。
「大丈夫だった」経験が自信につながります。 焦らず、一緒に練習しましょう。- 仕事(学校)は休んだほうがいいですか?
症状の程度によります。
会議や電話応対などが主な業務の場合、 強い苦痛を感じるかもしれません。
無理を続けると症状が悪化することもあります。
休養を優先することも大切な選択肢です。
「休むこと」は回復に必要なステップです。
ご自身の状態を最優先してください- 治療費はどのくらいかかりますか?
当院は保険診療を基本としています。
診察とお薬の処方(院外処方)で、3割負担の方はおおよそ2,000〜4,000円前後です(検査内容などにより変動します)。
当院からお伝えしたいこと
「あがり症だから仕方ない」
「自分は、こういう性格だから」
そう思って、人前に出ることを ずっと避けてこられたのかもしれません。
そもそも、緊張すること自体は、 悪いことではありません。
むしろ、物事に真剣に取り組まれたからだと思います。
ただ、その緊張が、 あまりにも強くなりすぎて、 あなたの行動にブレーキをかけている。
それが「社交不安障害」という状態です。
当院でのサポートにより、そのブレーキを少しずつ調整できる可能性があります。
「性格だから」と諦めてしまう前に。
あなたの苦しさがどこから来るのか、 私たちと一緒に整理してみませんか。
