不眠症:「眠れない」は、こころとからだが休養を求めているサイン
「ちゃんとベッドに入っているのに、何時間も眠れない」
「夜中に何度も目が覚めて、朝にはぐったり疲れている」
「まだ暗いのに目が覚めて、そのまま眠れない」
そんな「眠れない」つらさが続いていたら、それはあなたのこころとからだが「うまく休めていないよ」と教えてくれているサインかもしれません。
眠れない日々が続くと、日中の集中力や気力も奪われ、「今日も眠れなかったらどうしよう」と夜が来るのが怖くなってしまうことさえあります。
でも、それはあなたの「気の持ちよう」や「努力不足」ではありません。
不眠症は、生活リズムの乱れやストレス、環境の変化など、さまざまな要因が重なって誰にでも起こりうる状態です。
大切なのは、そのサインを「ただの寝不足」と見過ごさず、こころとからだを適切に休ませるための「手当て」を始めることです。
こんな「サイン」があれば、ご相談ください(不眠症の主な症状・受診の目安)
「こんなことで相談していいのかな」とためらう必要はありません。
「眠れない」というお悩みは、専門的なサポートによって改善が期待できる、とても大切なお悩みです。
次のサインが週3回以上みられ、1か月以上続いて日中の生活に支障が出ている、かつ十分な睡眠の機会があるのに改善しない場合は、医療機関での評価をおすすめします
- 入眠困難: 寝床に入っても、30分〜1時間以上なかなか寝つけない。
- 中途覚醒: 寝ている途中で何度も目が覚め、その後なかなか寝つけない。
- 早朝覚醒: 朝、自分が起きようと思う時間より30分以上早く目が覚め、その後眠れない。
- 日中の不調:
- 疲れが取れず、体がだるい(倦怠感)
- 集中力や注意力が落ちた
- 気分が落ち込んだり、イライラしやすくなったりする
- 日中の強い眠気が主症状の場合は、睡眠時無呼吸症候群や中枢性過眠症、概日リズム障害などの別疾患の可能性もあるためご相談ください。
早めに相談することで、「眠れない」ことへの不安が軽くなり、自然な眠りを取り戻すための一歩を踏み出しやすくなります。
不眠症とは
不眠症は、単なる「寝不足」とは異なり、睡眠の「量」だけでなく「質」が低下し、その結果として日中の活動に支障が出ている状態(病気)を指します。
「眠らなければ」と焦れば焦るほど、脳が興奮してしまい、かえって眠れなくなる――。
そんな悪循環に陥ってしまうのが、不眠症のつらい特徴です。
不眠症の主な原因 原因はさまざまで、複数が絡み合っていることも少なくありません。
- 心理的なストレス: 仕事や人間関係の悩み、大きなライフイベントなど。
- 生活リズムの乱れ: シフトワーク、不規則な就寝・起床時間など。
- 寝室の環境: 光、音、温度、湿度が不適切である。
- からだの病気: 睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、痛みやかゆみなど。
- こころの病気: うつ病や不安障害などの症状として不眠が現れることもあります。
- 嗜好品: カフェイン、アルコール、ニコチンなどの影響。
不眠症の診断と治療の流れ
- 初診:
まずは、どのような「眠れなさ」でお困りか、いつから続いているか、日中のご様子、生活やお仕事の状況などを、ゆっくり丁寧にお伺いします。 - 見立ての共有:
診断と同時に、不眠の原因となっている背景(ストレス、生活習慣、他の疾患など)を一緒に探っていきます。 - 方針の検討:
検査結果や問診内容に基づき、お一人おひとりの状態に合った治療方針を一緒に考えます。- 睡眠日誌の活用: より詳しく睡眠パターンを把握するため、「睡眠日誌(いつ寝床に入り、いつ起きたか、途中で目が覚めたかなどを記録するもの)」の記載をお願いすることがあります。これにより、ご自身の睡眠のクセや課題が客観的に見えやすくなります。
不眠症の治療の選択肢
当院では、カフェインを控える時間、運動の習慣、寝室の環境(光、音)など、睡眠の質を高めるための生活習慣を具体的に見直すことを治療の土台とします。お薬は、あくまで生活習慣改善の効果をサポートする「補助」として慎重に使用します。
① 睡眠に関わる生活習慣の見直し
睡眠に関わる生活習慣の見直しは、「薬に頼らず、自然な眠りを取り戻す」ことを目指す、効果が期待できる大切なステップです。
「眠れない」悪循環を生んでいる考え方のクセや生活を見直し、眠りやすいこころとからだの状態を再構築していきます。
眠りの質を良くするコツとしては以下のようなものがあります。
- 眠くなってから床に入る/眠れなければ一度離れて、眠気が戻ってから戻る。
- 起床時刻は毎日固定(休日も±1時間以内)、朝はできるだけ屋外の自然光を浴びる。
- 長い昼寝は避け、取るなら15–20分程度の短時間に。
- カフェインは就寝の6時間前まで。
- 就寝前の飲酒は避ける。
② 薬によるサポート(必要時)
「今夜も眠れないかもしれない」という強い不安が続くと、生活習慣の見直しに取り組むエネルギーも湧きにくくなります。
そのような場合、生活習慣改善の効果が現れるまでの「お守り」として、一時的にお薬の力を借りることがあります。
当院では、従来の睡眠薬と比べて依存性やふらつきのリスクが少ないとされる、新しいタイプの睡眠薬(メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬など)を主に用います。
漫然とした長期連用は避け、生活習慣改善と並行しながら、できるだけ短期間の使用で減薬・中止を目指していきます。
お薬への不安や疑問は、遠慮なくご相談ください。
回復の目安と日常生活の工夫
不眠症の治療は、風邪薬のように「飲んだらすぐ治る」というものではなく、「眠るための体質改善」に近いため、少し時間が必要です。
焦らず、ご自身のペースで取り組むことが何より大切です。
- 初期:
「眠れない」悪循環を生んでいる考え方のクセや生活習慣を見直し、眠りやすいこころとからだの状態を再構築することが第一歩です。睡眠日誌をつけることも有効でしょう。 - 回復期:
少しずつ生活リズムが整い、「眠れた」という日が増えてきます。
日中の活動量も少しずつ増やしてみましょう。 - 安定期:
睡眠のリズムが安定してきます。
「調子が良いから」と夜更かしなどをせず、整った生活習慣を維持することを目指します。
「良くなった」と思っても無理は禁物です。
「今日は眠れそうにないな」と感じたら、無理に寝ようとせず、リラックスして過ごすことを優先しましょう。
ご家族・周囲の方へ
ご本人が「眠れない」と悩んでいる時、ご家族や周囲の方も「どう声をかけたらいいか」と悩まれるかもしれません。
大切なのは、「温かく見守る」姿勢です。
ご本人は「眠れないこと」に誰よりも焦り、罪悪感すら感じていることがあります。
「早く寝なさい」「まだ起きてるの?」といった言葉は、かえってプレッシャーになり、「眠らなければ」という焦りを強めてしまうことがあります。
「眠れなくても、横になっているだけで体は休まるよ」「焦らなくて大丈夫」と、ご本人が安心してリラックスできるような声かけが、何よりのサポートになります。
不眠症について、よくあるご質問(FAQ)
- どのくらいで回復しますか?
回復のスピードには個人差があります。
睡眠に関する生活習慣の改善には、数週間から数ヶ月かかることが一般的です。
お薬を併用する場合も、症状が安定し、良い睡眠習慣が定着するまで、焦らずじっくり取り組んでいきましょう- 睡眠薬はずっと飲み続けないといけませんか?
いいえ、そんなことはありません。
当院では、睡眠薬は睡眠に関する生活習慣の改善を軌道に乗せるための「補助」だと考えています。
生活習慣の改善によって睡眠の土台が安定してきたら、医師と相談のうえで、こころとからだの状態を確認しながらゆっくりと減量・中止できます。
ご自身の判断で急にお薬をやめてしまうと、反動で眠れなくなることがあるため、必ず医師と一緒に調整しましょう。- 仕事(学校)は休んだほうがいいですか?
必ずしも休む必要はありませんが、日中の眠気や集中力低下が強く、仕事や生活に大きな支障が出ている場合は、休養を優先した方が良い場合もあります。
不眠症は、日中のパフォーマンス低下が問題の本質であることも多いです。
まずは治療に取り組み、日中のつらさを軽減することを目指しましょう。- 治療費はどのくらいかかりますか?
当院は保険診療を基本としています。
診察とお薬の処方(院外処方)で、3割負担の方はおおよそ2,000〜4,000円前後です(検査内容などにより変動します)。
当院からお伝えしたいこと
「夜、ぐっすり眠れる」ということは、私たちが毎日を元気に過ごすための、大切なエネルギー源です。
そのエネルギーがうまく充電できなくなると、こころもからだも、だんだん疲弊してしまいます。
でも、安心してください。
不眠症は、適切な「手当て」と「工夫」によって、改善が期待できる状態です。
しかしながら「眠れない」というつらさは、ご本人にしか分かりません。
どうか一人で抱え込まず、「こんなことで…」と思わずに、まずはお話を聞かせてください。
あなたのペースを大切にしながら、安心して休める「穏やかな夜」を取り戻すお手伝いを、一緒にさせていただければと思います。
